「親子の絆」中編/鈴木麻弓
http://rokkophotofestival.com/blog/?p=12108 (前編) 同じ頃、アルゼンチンの写真家Alejandro Chaskielbergのアシスタントをする機会に恵まれ、岩手県大槌町での撮影を手伝いました。彼も津波被害を受けた町の人々を撮影しているのですが、私の写真とは明らかにパワーが違いました。プロジェクトの進め方、地域との関わり方、プレゼンの仕方、彼が撮る必然性、特殊な撮影技法などなど、世界のトップレベルにいる写真家から学べることなど滅多にありません。この経験は、私にとって絶好のタイミングだったと思います。 http://www.chaskielberg.com/ アレハンドロは私の作品とステイトメントを丁寧に見てくれました。よくあることですが、ステイトメントと写真が一致していないことがあります。彼は私の400字程度の文章から、私が本当に撮りたかったものが何かを読み取っていました。「本当はお父さんから何を継ぎたかったのか、もう一度考えてごらん。そして紙に書くんだよ」と彼は私に言いました。 その助言から、私はテーマをより明確にし、「父から継ぐ」ことを表現したいのだと気がつきました。そして父と同じフォーマットである4x5カメラで、親子を再撮影することに決めました。父はずっと4x5でユーザフ・カーシュのような肖像を好んで撮影していました。とはいえ、私にとって大判カメラは初めてに近く、大学生の時に実習で使った以来でした。 最初は一眼レフのように気軽に構えることができずイライラしていましたし、やはりコストの面でも続けて行くかどうかの迷いがありました。ですが、友達にモデルになってもらい練習を重ねて行くと、自分のイメージ通りにカメラが操れるようになり楽しくなってきました。そして父が側にいるような感覚がありました。 大判カメラの利点としては、撮られる側のマインドも変わってくるということにも気がつきました。この下の写真は、4x5で初めて撮った親子です。まだカメラの操作に慣れていませんでしたので、三脚の高さを合わせたり、ピントを合わせたりすることにだいぶ時間がかかっていました。 その様子を見ていた友人のお父さんが「懐かしいなぁ。写真館ではこういうカメラだったね。厚さんを思い出すよ」と言いました。遠い日の女川の記憶、積み重なった家族の歴史。被写体になる人々が、レンズを見つめながらこうした過去を思い出すことができるのです。 次に考えたのは、コンセプトの見直しです。ストーリーは充分にあるのですが、カメラを変えただけの同じような撮影方法では、親子の関係性や家業を継ぐということを具体的に表せないような気がしました。より人物に迫った撮り方にして、若い人を手前にして、お父さんには見守ってもらうように後ろに立つ構図にしました。それでも人物を際立たせるように背景を充分に活かしきれず、試行錯誤をしていたのがこの時期です。 そして、写真館を受け継ぐ意味を視覚的に表そうと、写真館跡地に白い背景紙を設置しました。こうして私は、プロジェクトの中で三代目としての写真館を見いだし、次のステップへと昇華できたのです。 [...]